ダイカストにおけるFSWのメリット&デメリット
これまでFSWはアルミ展伸材には採用されていましたが、ダイカスト製品にはあまり採用されていませんでした。しかしながら、EV化の波もあり、最近ではダイカスト製品へのFSWの事例及びニーズが増えてきています。このページでは、アルミダイカストにFSWを施工した場合のメリット&デメリットを説明し、今後のFSWの動向を考えてみます。
目次
1. FSW(摩擦攪拌接合)とは?
FSW(摩擦攪拌接合)とは、棒状のツールを高速回転させながら材料に押し当て、材料を攪拌しながら接合する方法です。下の模式図のように接合すると簡単に冷却回路が形成できます。というように、多くの教科書、論文、webサイトで書かれています。言葉では簡単に説明できる(される)のですが、実際には言葉だけではよくわからないと思います。
「これだからおもしろい!」
と「わからない」ことが多くの研究者を惹きつけている気がしますが、実用化をするのに「おもしろい」だけでは困ります。製品設計、接合される部材の状態、接合条件など、総合的に工程保証をしなければ成立しないでしょう。
ちなみにFSWの基本特許は2015年にきれました。そのためFSWへの参入障壁がさがっています。設備メーカー、ツールメーカー、施工メーカー、そしてユーザーがこのFSW(摩擦攪拌接合)に着目しているのが現状です。
2.ダイカストとFSW
「ダイカスト製品を接合できたらうれしいよね?」
ダイカスト製品の接合ニーズは実は昔からありました。接合には溶接が検討されていましたが、なかなかうまくいっていなかったのが現実です。これはダイカストに含まれるガス(巻き込み)が原因です。ダイカスト製品にはその工法ゆえに圧縮されたガスが内包されています。そのため、溶接すると圧縮されていたガスが膨張してブクブクと気泡になり、溶接不良となってしまうのです。
「だったらダイカストのガスを抜いたらいいじゃん?」
と思うはずです。そこはさすがエンジニアです。PFダイカスト、高真空ダイカスト、脱ガス処理などの技術を開発し、溶接が可能なダイカストもつくれるようになってきました。ただ、そうした素材は特殊ダイカスト(コスト高)と呼ばれてしまい、敬遠される傾向にありました。
そうした中、固相接合であるFSWが颯爽と業界に登場しました。
「溶かさないので素材に含有しているガスが膨張しない!」
多くのダイカストメーカーには画期的な技術にみえたはずですし、今でも熱視線が送られている理由です。しかしながら、ダイカスト製品にFSWを施工した実績がほとんどないため、まだまだ開発段階、とされているのが日本の現状です。
3.ダイカストにおけるFSWのメリット&デメリット
いわゆるFSWのメリット&デメリットは教科書に譲ります。ここではダイカスト製品に特化したFSWのメリット&デメリットを考えてみたいと思います。以下が想定されるメリット&デメリットです。
メリット
・ダイカスト素材依存の接合欠陥が生じ難い(溶接と比較)
・中空形状をもつ製品をコンパクトに設計できる(ボルト締結と比較)
・コンパクトに設計できれば軽量化可能
デメリット
・高い推力でダイカスト素材を押し付けるため形状に制限がある
・接合後は分解が難しい
・素材の状態及び接合条件が未だ不明確
接合実績が十分でないこともデメリットのように考えられますが、はじめての場合は実績がないことが当たり前ですので除外します。
4.ダイカスト製品へのFSWの適用例
4-1 国内
アルミニウム展伸材へのFSW適用事例はその昔から多くありましたが、ダイカストはあまりみませんでした。そのような中、2020年に株式会社豊田自動織機及び日本軽金属ホールディングス株式会社からダイカスト製品へのFSWの適用事例が報告されました1, 2)。ADC12(PFダイカスト)とA1100(鍛造)を摩擦攪拌接合(FSW)した事例です。この部品はTOYOTA RAV4 PHV向け昇圧コンバータに採用されたそうです。ついに日本でもFSWの採用事例がでてきたんですね。
引用
1) https://www.toyota-shokki.co.jp/products/technical/item/3b9955bcd72e18f5fb406cd0587d27af.pdf
2) https://www.nikkeikinholdings.co.jp/news/news/p2020110901.html
こちらは2022ダイカスト会議にて大同メタル工業株式会社ブースの試作サンプルです。冷却回路形成のためにFSWが求められることが多くなってきているようです。
4-2 国外
一方海外メーカーの自動車では、2010年代初頭にダイカスト製品へのFSWが採用されています。当社の調べた範囲ですが、Bosch製のインバーターケースに採用事例がありました。Al-10%Si(ダイカスト)と1000系(鍛造)を接合した事例です。1000系合金はピンフィン形状に鍛造され、パワー半導体を冷やす設計となっていました。また、インバーターケース側にも冷却する部品が取り付けられていました。アルミの中では熱伝導率の悪いADC12ではなく、Al-10%Siを採用するあたり、日本の設計思想とは異なっているといえるでしょう。
また中国でもFSWが採用された製品がでてきています。写真は2022ダイカスト会議でのMILLISONブースのバッテリーケースです。バッテリーの冷却のため、ギガキャストで作られたダイカスト製品をFSWによって封止しています。やることなすこととにかく早い!
「先例があるのであれば自分たちにできないわけがない」
そのような気概が今の中国には感じられます。
5.今後の展開
本記事では、ダイカストにおけるFSWのメリットとデメリットを説明しました。みなさんいかがでしたでしょうか。
アルミニウム展伸材にはFSWの報告がそれなりにありますが、ダイカストではほとんどありません。しかしながら国内外をみるとダイカストへのFSWの適用事例がチラホラ。欧州メーカーを筆頭に中国メーカーがこれを追従する格好となっています。それもこれも、デメリットを上回るメリットが認識されてきた証左と言えます。
当社においてもFSWのお問い合わせをいただく機会が増えてきました。榊原精器は3,000台/月規模のFSWの施工が可能ですので、試作、量産などぜひお問い合わせください!